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雑学AEDと法律その他AEDがものすごい勢いで世間に広まっている。 僕たちプロでもその広がり具合を把握できないくらいに。 AEDがどんなものか、何ができるのか、どういう時に使うのかと言った技術的な情報は どんどん公開されているが、法律上どのように位置づけられているのか、 使うのにどんな資格が要るのか等々、制度上の情報を系統立てて説明しているWEBページが とても少ないので、以下に法律その他を中心としたAEDの説明を書きます。 特に、以下のような間違った知識を持った方には是非読んでいただきたい。 ・法律の改正によって、一般市民でもAEDを使えるようになった。 ・AEDを使うには普通救命講習等の講習を受けなくてはいけない。 初めに、法律全般についての話をします。人は基本的に他人に迷惑をかけないならば何をしても自由です(あくまで法律の話です。道徳の話はまた別で)。しかしながら、誰もが行うと社会に危険を及ぼす行為も多く存在します。そこで「こういう行為を行うと危険だ」という行為は法律で「禁止」されます。禁止されている行為を行うための資格を「免許」といいます。もともと禁止されていない行為には「免許」とか「許可」は存在しません。道を歩くのに誰かの許しはいりませんが、自動車を運転するのには免許が必要ですよね。これは、道路交通法で自動車を運転することが禁止されているからです。で、禁止されている自動車の運転を行うことができる資格のことを「自動車運転免許」と言います。道を歩くことは元々禁止されていないので、「歩行免許」というのは存在しないわけです。 では、AEDを他人に使う行為を禁止している法律はあるのでしょうか。医師法の17条には「医師でなければ、医業をなしてはならない」と書いてあります。ここで禁止されている「医業」とは具体的に定義されていないのですが、通説や判例では「医行為を反復継続の意思を持ち行うこと」とされています。そして、医行為は「医師が行うのでなければ保健衛生上危険を生ずるおそれのある行為」との最高裁判例があります。 AEDを他人に使うことは明らかに医行為ですが、医行為を禁止する法律はありません。あくまでも「業務として行う」医行為、すなわち「反復継続の意思を持って行われる医行為」が禁止されているのです。 たまたま出会った心肺停止患者に、近くにあるAEDを使う行為は、誰の許しを得なくても行うことができます。これは、法律が改正されたからではなく、元々禁止されていなかったのです。 では、AEDを使うことが違法になる「反復継続の意思を持ち・・・」とはどのような場合のことでしょうか。救急車には、AEDが載せてあります。そして、僕たち救急隊員は倒れた人のところに行って応急処置をするのが仕事です。明日も明後日もそうするつもりです。明らかに反復継続の意思がありますね。なのでAEDを使うことは禁止されます。その禁止を解除されるのが「救急救命士免許」です(厳密には医師法の医業禁止が解除されるのではなく、保健師助産師看護師法による診療の補助の禁止が解除されます)。救急救命士免許を持っていない救急隊員は、AEDを仕事中に使うことはできません。 救急隊員のように、明らかに反復継続の意思を持ち使用することになる立場のほかに、「業務の中心ではないが業務の一部として心肺停止患者に対応することが想定される」という微妙な立場の人たちがいます。消防隊員、警察官、警備員、そして旅客機の客室乗務員たちです(他にもいっぱいいると思います。世の中の全ての職業を知っているわけではないので)。一般市民が行える行為なのに、これらの職業の人が人の命を助けるための行為を禁止されているというのは不条理ですよね。 その不条理さにいち早く気づいたのが航空業界でした。世界では航空機にAEDがあるのは当たり前で、客室乗務員がそれを使えるのも当然だったのです。世界を飛んでいる彼らは、もしかしたら僕たち救急のプロよりも先にこの問題を感じていたのかもしれません。平成13年、定期航空協会から厚生労働省に次のような質問が行われました。長くなりますが質問部分を引用します。 「航空機内で、乗客が心停止状態に陥った場合において、除細動器による除細動を行う必要が生じる場面が想定されるところ、当該行為は医師又は医師の指示を受けた看護婦若しくは救急救命士により行われることが原則であると解されるものの、ドクターコールを実施してもなお医師等による速やかな対応を得ることが困難な場合等においては、客室乗務員が緊急やむを得ない措置として当該行為を行っても、医師法第17条違反又は保健婦助産婦看護婦法第31条違反を構成しないと考えるが如何。」 それに対する厚生労働省医政局医事課長の回答は「貴見のとおりと思料する。」というものでした。これが、免許がなくてAEDを使用することを国が認めた初めての通知です。本来、法律で禁止されている行為を国が認めるには「構成要件の不成立」を理由にするのではなく立法権で法律を改正するか新たな法律を作らなくてはなりませんが、行政の力でできる範囲ではこう回答するしかなかったでしょう。 その後、AEDというキーワードがどんどん広がり、厚生労働省は「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会」を発足させました。平成16年に報告書が出され、以下のことを述べています。 ・心室細動患者には直ちに電気的除細動を与える必要がある。 ・バイスタンダーが除細動を行えれば救命に有効だと思う。 ・除細動を安全に行うために、AEDというものがある。 ・AEDとは、対象者に電極を貼れば自動的に心電図を調べて、必要なときだけ実施者がボタンを押すと電気が流れるものをいう。 ・AEDを使うことは医行為なので今までは反復継続の意志を持ち行えるのは免許を持ってる人だけだった。 ・業務の一部としてAEDを使う場合でも4つの条件を満たせば使ってもいいのではないか。 ・救命の現場に居合わせた一般市民がAEDを使うのは違法ではないんじゃないか。 ・人命を助けるために行った行為だから、民事の責任も問わないほうがいいんじゃないか。 この報告書の中でも、一般の人がたまたま救急現場に居合わせてAEDを使った場合には反復継続の意思がなく、医師法違反にはならないと書いてあります。そして「業務の内容や活動領域の性格から一定の頻度で心停止者に対し応急の対応を行うことがあらかじめ想定される者(一定頻度者という略語を使う方がいますが、日本語として意味不明なのでやめたほうがいいと思います)」と表現されている救急隊員や消防隊員、警察官、警備員などは4つの条件を満たせば使っても違法にならないという「方針」が書かれています。「医師等による速やかな対応が困難」「対象者の意識、呼吸がない」「AEDの講習を受けている」「使うAEDが医療器具として認められている」。 この「検討会報告」が、一般市民がAEDを使うことができるようになったとされる唯一の根拠となっています。お分かりのように、厚生労働省という「行政」がだした「報告書」ですから、法律を曲げるような力は持っていませんし、「司法」が医師法を厳密に解釈して違法性を指摘した場合にはそちらが有効になります。報告書の中でも「医師法違反の問題に限らず、刑事・民事の責任についても、人命救助の観点からやむを得ず行った場合には、関係法令の規定に照らし、免責されるべきであろう」と、語尾が弱くなったりしています。これは仕方がないんです。本来は新しい法律が必要なものですから。 「法律の改正によって一般の市民でも講習を受ければAEDが使えるようになった」という表現をよく耳にしますが、どれだけ間違った表現かということがご理解いただけたでしょうか。 ちなみに、上記4つの条件の中に「使用される自動体外式除細動器が医療用具として薬事法上の承認を得ていること」という表現があるのですが、薬事法上の除細動器というのは「植込み型除細動器」「手動式除細動器」「半自動除細動器」「全自動除細動器」「非医療従事者向け自動除細動器」と5種類あるんですね。もちろん「非医療従事者向け自動除細動器(全自動除細動器・半自動除細動器のうち、容易に手動式に切り替えられないもの)」というのを使えば全く問題ないのですが、半自動除細動器も全自動除細動器もこの検討会報告で言うAEDの定義に当てはまってしまうものがあるんですね。つまり「対象者に電極を貼付すれば、機器が心電図波形を自動的に解析し、電気的除細動が必要かどうかを判断・表示し、必要な場合に限り使用者がボタンを押すことで通電が可能なものをいうこととする」という部分です。 厚生労働省に電話して「非医療従事者が、非医療従事者向け自動除細動器以外の除細動器のうち、非医療従事者による自動体外式除細動器の使用のあり方検討会報告書で書かれている自動体外式除細動器の定義に当てはまる除細動器を使用者の業務の一部として使用した場合、その法的責任についてはどうなりますか?」と聞いてみたんですが、明確な回答をいただけませんでした(初めに対応してくれた方は、質問の意味も分からないようでした)。仕方がないと思います。どう考えても未定義の問題ですから。 この文章を最後までお読み頂いた方、お疲れ様でした。一般市民がAEDを使うということについて、法律その他の制度からどのように解釈されているかという参考になればさいわいです。 ●2006/11/19訂正 一時的ペーシング機能付除細動器と電話操作除細動器という区分があるので、除細動器の種類は7種類です。 リンク: 非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会報告書(厚生労働省) ●戻る● |