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まじめ話実況決して旨くはない缶コーヒーをすすり、夏の汗でちょっぴり湿ったタバコをくゆらせ、 いつものように退屈な消防署の夕方が訪れていた。 突然、救急指令がかかる・・・まだ長いタバコの火を灰皿に叩きつけるように消し、 戦闘モードに切り替わる救急隊員たち。 まだ指令放送は終わっていないが、「意識なし」と聴いた瞬間に3人の動きが一段と早くなる。 「指令書はまだか!」指令装置の前で苛立つ隊員と機関員。指令書が出るまでの10秒が、 いつもよりも長く感じた。 指令書が出ると、ひったくる様に奪い取る機関員。もう場所を確認している時間はなかった。 隊員に誘導を任せ、運転席に飛び乗る機関員。「全速で行きます!」「おう!」隊長は静かに答えた。 「詳しい場所は見ておくので、町境の橋まで向かっちゃってください」 地図と指令書を見ながら、隊員が叫んだ。 夕方の交通ラッシュ。皆が自分のことしか考えられない時間帯。100人が100通りの目的地に向かう 交通戦場の中を、サイレンのBGMと共に駆け抜ける救急車・・・ すっかり日の伸びた夏の夕方を、赤色灯が赤く染めていた。 「直線道路に出た!」 機関員のキックダウンによりエンジンはうなりを上げ、数十アンペアの電装をものともしないパワーで ぐんぐんと加速を続けて行く。 片側一車線の県道を、左右の車を縫うように走り続ける。と、 前方の道路が空いた。車は見えない。 再び、エンジンの咆哮と共に強烈なGが3人を襲う。90km・・・100km・・・120km・・・ 対向車とすれ違うときには、車が、揺れた。140km・・・150km・・・対向車とすれ違うときに 一瞬「パシュッ」と乾いた音がするだけになった。対向車との速度差は200km。 引っ掛ければ「しまった」と思う余裕もない。 前方に、カーブが見えた。 「つかまってろ!」・・・減速は、しなかった。 「この先、右折!」隊員の誘導で、ハンドルを切った。規制枠の間をすり抜ける救急車。 左右の隙間が2cmしかない枠の前方に、小さく、家族が手を振っているのが見えた。 舗装の無い細い下り坂を、一気に駆け下りた。停車すると同時に、 3人がはじけるように飛び出し、患者の元へと駆け寄った。 わずか、5分間の出来事であった。 -------------------------------------------------------------------------------- 初めて実況系の文章に挑戦してみました。いかがでしたか? 最近は、テレビなどでも病院前救急医療に関する話題が取り上げられていますが、救急車が 現場に着くまでの様子というのは余り表に出ることがありません。 ちょっとだけ、雰囲気がわかってもらえればこの文章は大成功なのですが・・・ -------------------------------------------------------------------------------- オチ その日、満タンにしたはずの燃料メータが、この救急の後にもう一目盛り減っていた。 ●戻る● |